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60歳で定年退職、再雇用する必要は?&ブログが原因懲戒解雇?

自動車整備士・整備工場の労務相談室

せいび界2012年7月号Web記事

Q1、60歳で定年退職、再雇用する必要は?

長年勤めてきた整備士が定年を迎え退職する。しかし、退職後も「再び雇って欲しい」と言われた。この場合、再雇用しなければならないのだろうか?

A1、

法律上、「定年=雇用契約の終了」を意味します。そして、「再雇用=新たな労働契約の締結」になります。ですから、再雇用するかしないかは会社の自由であるというのが「原則」です。しかし、例外もあり再雇用しなければならない場合もあります。それは、

○定年後に再び雇用する契約になっている

○過去の例から判断し、再雇用が当然の状況になっている

などの場合です。この場合は「再雇用しない=法律違反」となります。

ちなみに、平成18年4月に高年齢者雇用安定法が改正となっています。 これによると、65歳未満の定年制度がある会社は

○定年の引き上げ(最低65歳まで)

○定年後、再雇用を希望する人は「全員」最低65歳まで再雇用する

○定年制度の廃止

のいずれかの選択をしなければならないのです。

ご質問頂いたケースでは、どの選択もしていませんでした。そこで、就業規則を改定し、定年を65歳に上げることにしました。法律が改正されてから、約6年が経過しています。しかし、まだ選択をしていない会社が多いことも事実です。つまり、法律違反のまま、放置されているのです。

こういう会社は

○社員が労働基準監督署に相談した

○労働基準監督署の調査があった

という場合に大きな問題に発展する可能性もあります。

もし、まだどれも選択していないなら「必ず」選択するようにしてください。それは、「法律上の義務」なのです。具体的には、就業規則の改定で対応します。

それから、他社で選択済みの会社は「定年後の再雇用」を選択している場合が多いです。 逆に言えば、「定年の引き上げ」、「定年廃止」を選択する会社は少ないのです。もちろん、本人が再雇用を希望しない場合もあります。例えば、

○定年制度は60歳

○本人が希望すれば、65歳まで再雇用

ということでもOKです。ただし、「再雇用=正社員」でなくてもOKです。例えば、

○契約社員

○パートタイム

○アルバイト

○顧問

などの形式でもOKです。

ここでご説明した通り、「定年後の再雇用」を選択した会社は、希望者「全員」を対象としなければなりません。しかし、これは「契約」なので、お互いの合意が必要です。

ですから、社員が「この条件では嫌だ」と言えば、契約は不成立です。

この場合は「会社は再雇用の義務違反にはならない」のです。ここは大切な部分なので、憶えておいてください。

それから、「再雇用=原則は最低65歳まで働く」となります。しかし、経営状況の悪化により、再雇用を辞めたいこともあります。その場合は、下記の条件が必要となり

ます。

○人員整理の必要性があるか

○整理する人を選ぶ基準の合理性があるか

○解雇を回避しようとする努力をしたか

○社員に対してきちんと説明会を実施したか

これらを総合的に判断して人員整理の妥当性を図るのです。定年後の再雇用だからといって、安易な人員整理はできません。逆に、上記の条件がクリア出来れば、人員整理も有効になるのです。

最後に再雇用を選択した場合の注意点をお伝えします。繰り返しになりますが、希望者「全員」の再雇用が「原則」です。しかし、次の点に注意しましよう。

○本人の意欲

○本人の能力

○本人の健康状態

特に「健康状態」には個人差があるので、慎重な判断が必要です。また、正社員でなくてもOKですから、健康状態や本人のライフスタイルを考えた働き方を受け入れて もOKです。例えば、

○労働時間を短くする

○簡単な作業をさせる

などです。この部分は柔軟な対応が必要になります。「60歳になる社員は当分いないから、ウチは関係無い」と思っていませんか? 時間的には余裕があっても、就業規則が現在の法律に対応していない会社はたくさんあります。就業規則は

○会社の成長に合わせて改定するもの

○法律改正があったら対応するもの

です。しかし、大半の会社はフォローしきれていません。必ず、フォローするようにし て下さい。大変な問題が起きてから、ご相談にいらっしやる会社の大半がフォローしてこなかった会社なのも事実なのです。

Q2、ブログに会社の悪口、社員を懲戒解雇にできるか?

新入社員のフロントスタッフが自分のブログに、会社の悪口を書き込んでいる。

このままだと会社の信用に影響が出てしまう。この書き込みを削除させ、この整備士を懲戒解雇にできるだろうか?

A2、

最近は個人が容易にホームページやブログを持つ時代です。また、様々な掲示板もあり、色々な情報が飛び交っています。ですから、社員が会社の悪口を書いても不思議ではありません。とはいえ、会社の悪口が書き込まれ、ビジネス上の取引、採用活動等に影響が出たら大変です。

一方、憲法では「表現の自由」が認められています。ここで、問題になるのは

○会社の名誉毀損

○社員の表現の自由

のバランスです。

実際に過去の判例を見ると、書かれたことが事実ならば、名誉毀損にならないのです。したがって、社員の書き込みに「根拠」があれば、名誉毀損とはならないのです。

しかし、書かれた事実が

○単なる嘘

○行き過ぎた謎誇中傷

ならば、社員に対して何らかの懲罰を与えることができます。ちなみに、これを裏付ける判決があります。

<日本經濟新聞社事件(東京高裁 平成14年9月)>

社員 (新聞記者) が自分のホームページに
○会社を通じて知った事実や体験 (守秘義務違反) 会社への批判 (本人は愚痴レベルのつもり)
を書き込んだのです。 そこで、会社は、
○ 14日間の出勤停止
○懲罰の意味での異動 (=飛ばされた)

としました。しかし、社員は「これは違法だ」とし、裁判を起こしました。

結果として、裁判所は

○社員の一方的判断で、取材過程などを公表した

○今後の取材活動などに支障を及ぼす可能性がある

○マスコミの信用を落とすもの

と、「この処分は正当」としたのです。このように、「会社への愚痴が愚痴で済まないケース」もあるのです。ご相談のケースでは、

○ブログに書いた事実の確認

○なぜ、そのようなことを書いたのかの確認

○事実の一部を認め、会社が改善

をし、書き込みの削除をさせました。実際に会社にも悪い部分があったため、改善し、処分もしませんでした。

しかし、この場合でも話がこじれたら、懲戒処分を実施せざるを得ない場合もあります。ちなみに、この場合に大切なことがあります。

それは、「『就業規則』に『懲戒の規則』が『具体的に記載』されている」

ということです。例えば、こんな形式です。

第○条 従業員が次の各号のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。

(1) 会社及び会社従業員、又は関係取引先を謙誇若しくは中傷し、又は虚偽の風説を流 布若しくは宣伝し、会社業務に支障を与えたとき

(2) 以下は省略

そして、これが社員に周知されていて、閲覧可能になっていることです。もう一点大切なことは

○書き込みの内容 (事実であることが前提)

○懲戒処分の程度

のバランスが良くなければいけないのです。当然ですが、それなりの理由が無いと「権利の濫用」になってしまいます。この場合「権利の濫用=恐怖政治」に発展している場合もあります。

私は様々な会社の案件を通じて感じることは

○恐怖政治の場合、社員の離職率が高い
→採用コスト、教育コストが高騰

○新人が新人を教える世界になる

○社内に活気がなく、社員がコソコソ動く

○労使トラブルも多い

となっている事実です。結果として、こういう会社は、社員が色々なことをネットに書き込む場合もあるのです。そして、それに対して更なる権利の濫用…。この悪循環を繰り返している会社は「本当」に多いのです。

しかし、トップのカリスマ性、営業力により、会社の業績は伸びてしまったりします。 ですから、恐怖政治も改善されず、トラブルが絶えないのです。絶対にこの悪循環を繰り返さないようにして下さいね。

 

ライター紹介

内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)

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