名ばかり管理職への残業代は?&入社時の誓約書について

自動車整備士・整備工場の労務相談室

せいび界2012年4月号Web記事

Q1、名ばかり管理職への残業代は?

新車販売を担当している店長に「管理職なのだから」と言って残業代を払っていなかった。しかし、その店長が「店長と言っても名ばかりで権限が何もない。自分は管理職ではない。だから、一般社員と同じように残業代を払うべきだ!」と主張してきた。

残業代は払わなくてはいけないのか?

A1、

小売業、飲食業などでは、店舗に店長がいます。しかし、実際は店長と呼ばれるだけで、権限がない場合もあります。ただ会社は管理職と考えています。ここが問題なのです。なぜ「会社は管理職にしたいか」というと、

○管理職には残業代を払わなくてもよい

○管理職には休日手当を払わなくてもよい

○管理職には休憩を与えなくてもよい

などの「法律上の権利」が発生しないからです。

これを利用して店長を管理職としてきたのです。そして、残業代等の支払いもしてこなかったケースが多いのです。そんな中「これは違法だ」とマクドナルドの店長が裁判を起こし、東京地裁は「会社が違法」と判断しました。つまり、「店長は管理職ではない」ということです。これをきっかけに流通業、飲食業で店長の見直しが始まりました。しかし、明確な基準が無い中での見直しでした。そこで厚生労働省が「名ばかり管理職についての通達」を出したのです。通達では「管理職」を次のように定義しています。

管理職ではないケースとして、

○アルバイトなどの採用権限がない
○部下の人事評価に関与していない
○遅刻、早退などすると減給等になる
○給与を時給に換算すると最低賃金に満たない

などを挙げました。この他にも

○給料の総額も判断基準の一つ

○仕事の内容が一般社員と同じなら、当然管理職ではないなどの要素もあります。

そして、これらの要素を総合的に判断し、管理職か否かの判断をするのです。この通達が出たことにより、今後は「ごまかし」が効かなくなりました。そして、これに違反すると、行政が徹底的に調査、指導するとの事です。実際、当時の外添要一厚生労働大臣がTVで「これに関しては徹底的にやる」とコメントされていました。結果、労働基準監督署の調査メニューに「管理職の実態」が加わり、ここは徹底的に行われるのです。秋は、労働基準監督署の調査が多い季節です。この通達により、今まで以上のメスが入ることは確実です。「管理職の定義」をクリアしていますか。

○管理職の範囲

○管理職の権限

○管理職の給料

などが就業規則等で不明確だと労働基準監督署の調査で指摘されます。ルールを整備するのに早すぎることはありません。労働基準監督署の調査は明日にでもやってくるのです。

○調査対象になるリスク

○社員が労働基準監督署の駆け込むリスク

などは、予想がつきません。だから、法律に従った最低限の準備、整備はすべきです。 問題が全く無い会社はほとんどありません。そして、100%クリアするのも難しいのが実態です。だからこそ、「何が白」「何がグレー」「何が黒」なのかを認識しておく必要があるのです。また、

○どういう会社が調査対象になるのか

○どういう資料で調べるのか

○どういう方法で調べるのか

を知る必要があります。そして、

○どうやって対処すべきなのか

○質問にどう答えるのか

などを事前に知る必要があるのです。

Q2、入社時の誓約書について

うちの工場では、入社した時に誓約書を交わしている。その誓約書には、就業規則 に記載した遵守事項も書かれている。しかし、「それだけでは駄目だ」と工場経営者の 友人に指摘された。誓約書だけでは駄目なのか?

A2、

確かに、誓約書は重要です。しかし、これだけでは不備なのです。「書面」で「労働契約書」を交わさないといけないのです。この名称は「雇用契約書」、「顧入通知書」、「労働条件通知書」などなんでも構いません。ただし、

○労働する時間
○働く場所
○担当する業務
○始業、就業の時刻
○休憩時間、休日、休暇
○給料、昇給

など、最低限記載しなければなりません。これらを記載した書面を取り交わすのです。 そして、これは平成11年4月1日から法律で義務化されています。もちろん雇用契約書を交わしている会社も沢山あります。しかし、その雇用契約書に不備があることもかなりあります。私が言いたいのは「その不備に気付いていない」ということです。しかし、これから大変なことになることもあります。下記は労働基準法違反で地検に書類送検された事例です。

<老舗ホテルを書類送検=賃金など明示せず>

甲府労働基準監督署は20日、甲府市湯村の「常磐 (ときわ)ホテル」と同ホテル副 支配人の男性 (60歳)を労働基準法違反の疑いで甲府地検に書類送検した。調べでは同ホテルは4月に採用した5人の新規卒業者に対し、賃金の取り決めの労働条件を書面で明示する義務があるにもかかわらず、明示しなかった疑い。[出典:毎日新聞(平成 17年7月20日)]

たったこれだけのことで、書類送検…。厳しいですよね…。しかし、これだけでも書類送検になったのです。新聞報道もされたのです。売上にも大きく影響したと思われま す。たかが雇用契約書、されど雇用契約書です。これは、労働基準監督署の調査でも「必ず」チェックされます。ちなみに、調査をする労働基準監督官は「特別司法警察官」でもあります。だから、監督官の判断で書類送検できるのです。書類を甘く考えないで下さいね。その他にチェックされる書類は、

○賃金台帳

○出勤簿、タイムカード

○就業規則

○残業、休日出勤に関する協定書などです。

調査時にこれらの書類を

○隠す

○改ざんする

○ロ頭で言い逃れをする (悪質な場合)

などの場合、書類送検となる可能性が高くなります。正直、100%の保全ができている会社はありません。従業員が労働基準監督署に飛び込むこともあるでしよう。調査があることもあるでしよう。ただし、「絶対に」避けるべきことは書類送検されないことです。これが報道される場合もあります。報道されれば、売上にも大きく影響します。このことだけは憶えておいて下さいね。当然、書類送検はされなくても書類の整備は重要です。調査で指摘されることは、単純に書類の体裁さえ整えれば、防げたことも多いのです。こういう1点の水もれから、労使トラブルになることも多いのです。

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