パワハラってどこから?&社員の不祥事に対処法は?

自動車整備士・整備工場の労務相談室

せいび界2012年3月号Web記事

Q1.パワハラってどこから?

うちの工場では車販にも力を入れているので、営業担当者を置いている。しかし、このところ車販も車検も思うように取れておらず、営業部長が「結果を出すまで帰ってくるな!」ということもしばしば。これって行き過ぎると、いわゆるパワハラになるのではないだろうか?

A1.

不況のために社員のリストラを行ったり、給料も上がらなかったりという会社も多くなっています。当然、会社の雰囲気も悪く、ストレスも溜まり、上司と部下のトラブルも増えています。

ご質問にあるように、数字を上げられない部下に上司がいら立ち、「結果を出すまで帰ってくるな」と怒鳴っているケースもあります。しかし、これが行き過ぎると「パワハラ」になってしまいます。具体的には、

○罵倒・侮辱・脅迫をする
○仕事に必要な情報を与えない
○達成不可能なノルマを強要する
○仕事を与えない
○暴力を振るう

など、様々なケースがあります。

しかし、パワハラと対比されるセクハラが男女雇用機会均等法にも、その防止が定められているのに対し、パワハラは法律に明記されていません。そのため、放置されていたり、パワハラをやめさせようとしても悪質でない場合は裁判所も認めてくれません。

参考になる判例があるのでご紹介します。

<西谷商事事件 平成11年11月 東京地裁>

○上司らによる部下への暴言等があった

○この行為の差し止めを求め、裁判を起こした

しかし、裁判所は部下の申し立てを退けました。この理由は、

精神的な苦痛が日常的ではない

精神的に疲弊し、心身に障害が発症した等がない

しかし、会社側が負けた判例もあります。この判例では、いじめた加害者も会社も損害賠償を命じられました。

<誠昇会北本共済病院事件 平成16年9月 さいたま地裁>

○男性看護師は先輩により服従させられていた
○肩もみ、家の掃除、車の洗車、風俗店の送迎、パチンコ店の順番待ち、馬券購入などをさせられた
○社員旅行の際、飲食代約9万円を負担させられた
○男性看護師に好意を持っている事務職の女性と2人きりにさせ、性的行為をさせ、これを撮影しようと企てた
○仕事中に「死ねよ」と発言したり、「殺す」とメールした
○職場の会議で、男性看護師の様子がおかしいことが話題となる
○男性看護師が自宅で自殺

そして、男性看護師の両親は裁判を起こしました。裁判所は、

先輩はいじめた損害を賠償する責任がある(損害賠償金1,000万円)

病院側にも安全に配慮すべき義務違反(損害賠償金500万円)

としました。

会社は雇用契約に基づいて、「人間が人間らしく、働きやすい環境を保つ義務」があります。ですから、これを怠った場合は損害賠償を負うのです。ただし、注意点があります。パワハラについては「違法かどうか」の明確な基準がないことです。

例えば、

○指導が熱心過ぎる

○世代間のギャップにより誤解が生じる

○叱る上司と叱られる部下の意識の違い

などにより、パワハラと感じるかどうかも変わってきます。

また、業績を上げようと焦った場合、いじめなどの意図はなく、違法とまで言えるかどうかは微妙な場合もあります。上司個人に行き過ぎがあっても、ギリギリの人員のため、会社が無理をさせている場合もあります。

この場合、上司だけの個人責任とするのは行き過ぎの場合もあります。つまり、基準がないだけに、非常にデリケートな問題でもあるのです。しかし、基準がないからといって、放置する訳にもいきません。法的な基準がないだけに、敢えて「自社としての基準」を作ることもあります。

当社でコンサルした就業規則には、必ずこの基準をご提案しています。もちろん、就業規則というハードがあればいいというものではありません。

○日ごろから職場環境に目を配ること

○報連相の徹底を認知させること

○管理職への社員研修

などを通じて、ソフト面からのアプローチこそが大切なのです。

会社というものは「人と人のつながりの世界」です。ハード面もソフト面も充実させていかなければならないのです。

 

Q2.社員が不祥事を起こした場合の対処法は?

うちの検査員が工場長がいない日ばかりを狙って、違法改造車を車検に通していたことが発覚した(もちろん、賄賂ももらっていた)。一目置いていた社員なだけに信じ難いが、不祥事は不祥事だ。どう対処したらよいだろうか?

 A2.

部下が不祥事を起こした場合、上司が責任を取ることもあります。こういう場合、処分の重さを比べた場合、

○上司への処分 < 部下への処分

○上司への処分 = 部下への処分

○上司への処分 > 部下への処分

どのように考えたらいいのでしょうか?

まず、上司への処分は「就業規則に記載されていることが前提」です。これは「監督責任と処分のバランス」を明確にするためです。具体的には、下記の事項を記載します。

○就業規則に処分対象となる部下の不祥事の「種類」
→部下がこの不祥事を起こしたら、監督責任を問われる

○重い場合は、懲戒委員会等の開催を実施する旨
→複数の意思決定を行い、社長の独断ではないことを証明する
→前例がある場合、どのような対応をしたかも参考にする

一般的には、上司の処分は「監督責任」が問われるだけなので、処分の重さは「上司への処分<部下への処分」となります。しかし、

○部下の不祥事が刑事事件などの重大な違反

○会社に対して大きな損害をもたらすようなもの

○上司が不祥事を放置した場合

○上司の過失により発見が遅れた場合

などは重い処分も考えられます。ここで参考となる判例をご紹介します。

<関西フエルトファブリック事件 平成10年3月 大阪地裁>

 この事件は、

○経理担当者が約8,500万円を横領

○経理担当者だけでなく、営業所長も監督義務違反で懲戒解雇

という流れでした。これに対し、営業所長は解雇無効を求めて裁判を起こしました。そして、裁判所は、

○営業所長と経理担当者は長時間、かつ、密接に行動を共にしていた

○経理のチェックが全くされていなかった

そこで、営業所長には重大な過失があり、「解雇は有効」と判断されました。この事件は被害の大きさ、管理の甘さから「解雇は有効」となったのです。ポイントは、営業所長自身は「何もやっていない」という点です。しかし、場合によっては、このような結果になるのです。

本来、不祥事は「防止することが一番」で、そのための社内チェック体制を確立することが重要です。もちろん、チェック体制があっても100%は防げないのが現実です。表には出ませんが、大手金融機関などでも「定期的に」不祥事は起きているのです。

悲しいかな、「不祥事は起こる」という前提で就業規則を作らないと会社を守ることができないのです。そのために、不祥事の種類と対処方法を明確にしておく必要があるのです。

ただし、処分を行うのは結果であって、本来の目的ではありません。上司が部下の不祥事の責任を取る場合、「部下への監督責任を自覚させる」ことが目的です。ここはよく考えましょう。就業規則の整備はしますが、「考え方そのもの」が性悪説に立ってはいけないのです。

今回の流れを整理すると、

○社内マニュアルの整備など、チェック体制の確立

○就業規則の整備

○不祥事が起こった場合、本人と上司の処分を検討

○本人、上司に弁明の機会を与える

○処分の決定

となるのです。

また、防止の観点から「防犯カメラ」を設置している会社もあります。例えば、レジの上にカメラが設置してある店もよくあります。もし、自社で防犯カメラを導入するならば、

○設置理由

○撮影時間帯

を事前に社内アナウンスしなければなりません。これをしないと法律違反になります。もちろん、社員の権利を侵害しない配慮も必要です。ただし、「不祥事の防止」だけでは設置理由に足らず、強盗に備えるなどの外部に対する理由も必要となります。

「うちでは不祥事は起こりません」という社長さんもいらっしゃいます。しかし、それは「うちの子に限って」と同じで、世の中で繰り返されていることも事実なのです。今、こうしている間にも何かが起きているかもしれません。巧妙な手口でやられてしまうと、発見が遅れる場合もあります。

しかし、事前の準備がしてあれば、不祥事が起こっても、ルールに従って対応すればいいのです。実際には感情が大きく揺れるため、冷静には対応できません。怒りが爆発し、腹が煮えくり返ることもあるでしょう。

しかし、結果としての判断、行動は冷静にすべきです。ここを冷静にできず、会社側が不利になるケースもあります。だからこそ、判断基準となるルールが必要なのです。

ライター紹介

内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)

 

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