Q、余剰人員の解雇方法は?
当社はピーク時には年間2,000台の車検台数をこなしていたものの、近年は若者のクルマ離れや少子高齢化、あるいは車検も含めて販売するカーディーラーの囲い込みにより台数が激減し、メカニックが明らかに余剰人員となっている。となると、解雇せざるを得ないのだが、法的な条件が厳しいとも聞いている。合法的に進めるにはどうしたらよいか?
A、
「解雇したいが、法的な条件が厳しい・・・」、このように感じている社長さんは確かにたくさんいらっしゃいます。しかし、現実には「法律のハードルが高い」ために解雇できないのです。
では、法律の条件を見てみましょう。解雇を実行するには、
○就業規則に書かれている「相応の理由」
○法律で決められた「解雇予告手当」などの手続き
が必要になります。
だから、この2つを満たさないと「不当解雇」になるのです。そこで、多くの会社は「肩たたき」を実施しているのです。つまり、「お引き取り願う」ということです。
では、具体的にはどのような方法で行われているのでしょうか?「肩たたき」を法律用語では「退職勧奨」と言います。まずは、退職勧奨の定義を見てみましょう。それは、「社員が退職の意思表示をするように勧めること」です。
ただし、この退職勧奨そのものに法的な拘束力はありません。社員が「ノー」と言ったら、それまでです。しかし、会社に「辞めて欲しい」と言われた社員は、「自分の居場所がない」ことに気づくはずです。そして、自ら退職の意思表示をすることが多いのです。結果として、退職勧奨が有効となる訳です。
もちろん、退職勧奨が単なる「退職の勧め」ならば、合法です。しかし、限度を超えると、違法となる可能性があります。例えば、
○何十回も行うもの
○脅迫的なもの(例:密室で大きな声を立てる)
○嫌がらせを伴うもの(例:長時間に渡って退職を勧める)
などです。
このような場合は、社員が退職の意思表示をしても「無効」となるのです。これは、「回数・場所・時間」などがポイントになります。
例えば、過去にこんな判例がありました。
<全日空事件 大阪高裁 平成13年3月>
○女性客室乗務員がタクシー事故で鞭打ち症となった
○復職から4ヶ月間、5人の上司から30数回の退職勧奨があった
○その中には1対1で約8時間に渡る面談もあった
そして、「この退職勧奨は違法行為だ」と争いになったのです。
そして、裁判所は、
○単なる退職勧奨ではなく、違法な退職の強要
○精神的損害として慰謝料80万円
と判断したのです。全日空でもこんな事件があったのです。他人事ではありません。
では、「適正な退職の意思表示」を獲得するための方法を解説します。例えば、
○転職の支援(例:転職支援会社のサポートを付ける)
○割増退職金の支給
などがあります。もちろん、
○プライドを傷つけない
○誠意を持って対応する
ということが必要です。絶対に「退職勧奨に合意しなければ、解雇する」と言ってはいけません。ここは思わずやってしまう部分なので、ご注意ください。
多くのトラブルは感情が引き起こすものです。そして、それがもつれて裁判になるケースが多いのです。特に、退職を勧めるというデリケートな問題の時は、誠意ある対応が必須なのです。
ライター紹介
内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)
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