Q、出向命令に従わない社員への対応は?
私には子供がおらず、現在経営している整備工場は社員の中の誰かに継いでもらいたいと考えている。その中でも有望なA君だが、最近伸び悩みがちのため、他社の空気を吸ってくるのも勉強のうちと思い、知り合いのカーディーラーに出向を命じた。しかし、意に反して、会社の横暴だといって命令に従わない。この場合、どうすればいいか?
A、出向には2種類あります。
○在籍出向…今の会社に籍を残したまま、出向先に勤務すること
○転籍出向…今の会社を退職し、出向先に勤務すること
ただし、一般的に「出向」というと、前者のことを指します。後者は単に「転籍」と呼ばれることも多いです。以下、「出向=在籍出向」として書きますが、出向の場合、「籍」は今の会社ですが、働くのは出向先の会社です。これには「原則として」社員の同意が必要です。その方法を見ていきましょう。
例えば、技術系の会社であれば、定期的に出向があることもあります。また、人数、機会が多ければ、事務手続きが煩雑になります。そこで、「例外として」、一定の場合には個別の同意が不要になるのです。
この一定の場合とは、
就業規則に社員を社外勤務させる規定がある
(1)出向先との給料の差がある時は差額を支給する規定がある
(2)出向に合理的な理由がある(例:技術取得のため)
(3)出向に合理性がある(例:出向者の技術力、立場)
(4)出向先と出向元の勤務体系が同じ(例:休日数、残業時間)
などです。
特に(1)、(2)は就業規則などで決まっている場合が多いのです。通常、入社する際に、「会社のルールに従う」という記載のある誓約書を提出させる場合が多いです。つまり、「就業規則などのルールを守ります」と誓約させているのです。
これは出向についても「包括的に」同意していることになるのです。だから、個別の同意書は必要ないということになるのです。今回のケースも、出向の規定があって、社員から誓約書ももらっていれば、「会社の横暴」ではないのです。
しかし、「法的にOKであること」と「社員が納得すること」とは別問題です。だから、会社は社員を納得させることが重要な仕事なのです。そのためには、
○出向の必要性を説明する(会社のため、本人のため)
○出向の根拠(就業規則など)を見せる
○拒否できないことを理解させる
などを通じ、出向を受け入れてもらうのです。
ただし、問題があれば対応することも必要です。例えば、介護が必要な家族を抱えている場合です。この場合は、家族の状況、出向期間などを考える必要があります。そして、最もやってはいけないことは、「この社員は出向に関して文句を言うから、別の社員にしよう」という対応です。
この対応を行うと、他の社員への示しがつかなくなります。そして、社員が会社の人事に不信感を持つようになるのです。結果として、組織のバランスが崩れるのです。出向は基本的に配置転換と同じ考え方です。社員は会社の命令に従うことになります。
会社の命令は社員にとっては、「必ず守らなければならない」部分もあるのです。ここを押さえていかないと、社員が「わがまま」になるのです。もちろん、就業規則で社員の「わがまま」を抑えることは可能です。さらに、出向規定もきちんと盛り込めば、トラブル回避にもなるのです。
最終的に、組織は「人対人」の作業です。しかし、その前提となる「形式(=就業規則など)」を整えることも大切なのです。
ライター紹介
内海正人:日本中央社会保険労務士事務所 代表/株式会社日本中央会計事務所 取締役
主な著書:”結果を出している”上司がひそかにやっていること(KKベストセラーズ2013)、管理職になる人が知っておくべきこと(講談社+α文庫2012)、上司のやってはいけない!(クロスメディア・パブリッシング2011)、今すぐ売上・利益を上げる、上手な人の採り方・辞めさせ方!(クロスメディア・パブリッシング2010)
- 1
- 2